敦賀半島エリア

海と暮らす、
波打ち際から生まれる物語

TSURUGA PENINSULA
area

敦賀半島の西部、
敦賀半島エリアは
海とともに暮らす漁師町。

外海とは違った穏やかな風景の丹生湾や、
日本水浴場88選にも選ばれた海水浴場として
人気が高い「水晶浜」など、
透明度が高く美しい海が広がります。

水平線に沈む夕日や満点の星空など、
美しい景色で多くの人を魅了する
敦賀半島エリア。

その波打ち際では
さまざまな物語が生まれていました。

Story

Story 02.

敦賀半島エリア2025.01.14

「精霊船」
祈りと鎮魂の航海へ

敦賀半島の西側に位置し若狭湾に面した菅浜は、特有の文化が残る地域。毎年8月15日におこなわれる「精霊船送り」も、菅浜で継承されてきた伝統行事のひとつだ。

精霊船とは、初盆や盆の時期に故人を弔うために、お供え物を乗せて流す流し船のこと。行事自体は全国各地にあるが、菅浜の精霊船はその中でも最大とされ、福井県無形民俗文化財にも指定されている。

その起源は定かではないが、集落をあげて行う行事として、戦時中も中断されたことはなかったという。海の彼方の浄土へ船を送るという厚い信仰心によって今に続く伝統行事の1日を追った。

住民総出で準備を進める
船造り

海水浴場には「精霊船送り」の幕が張られていた

作業に参加するのは男性のみ。「胴丸」と呼ばれる船の骨格になる部分を運ぶ

茅や麦わらを使ってしっかり編み込まれる

船のパーツの一つである竹の部品も自分たちの手で削る

8月15日朝9時。菅浜海水浴場に到着すると、海水浴を楽しむ人が多い中、すでに多くの男性たちが作業にあたっていた。

精霊船の準備は4カ月以上かけて行われる。5〜7月頃、各家庭で山や畑から茅や麦わらを刈って干し、2日間かけて船の骨格となる「胴丸」と「胴巻き」を作成。当日は船のパーツを浜で組み立てていく作業になる。

2024年の船は従来の2/3ほどの大きさになったが、それでも国内最大級の大きさだ

「よーいとまけ」という掛け声とともに縄をかけて船を組み立てていく

船がバラバラにならないよう、竹の杭で本体を固定する

長い歴史をもつ精霊船だが、昭和10年頃までは北浜と南浜の2地区に分かれて1隻ずつ船を造り、沖に流す早さを競っていたそうだ。その勝敗によって漁や豊作の吉凶を占っていたが、人手や材料調達の難しさから戦後から1隻の造船となり、今に至る。

数人がかりで往復しながら胴丸と胴巻きを浜に運び、形を整えながら先端をシャチホコのように天に向けて船を固定していく。ベテランと思われるリーダーが指示を出しながらバランスを調整し、より安定した形になっていく。

若者もベテランもそれぞれが手際よく作業を進める中、時折笑い声が響き、楽しそうな様子。「お茶やアイスもあるで」と取材に訪れていた私たちにも声をかけてくれるなど、気さくな人柄が伝わってくる。

多種多様な紙飾りが船を彩る

浜の目の前にある「海のくらし館」

館内には過去の精霊船送りの様子がパネルで展示されている

一つひとつ手作業で紙細工を取り付けていく

船の組み立てが進むなか、浜の向かいにある「美浜町 海のくらし館」では、船につける飾りの準備が行われていた。

精霊船といえば、船を彩るカラフルな飾りが特徴だ。当日の作業は男性たちが行うが、飾り作りは1カ月前から地区の子どもと母親たちが作るのが慣習となっている。

壁には一面、折鶴や輪飾り、花輪などが並べられていた。透かし細工や細かい模様が入った切り紙細工もあり、手が込んでいる。これを装飾した竹の棒に一つひとつ手作業で取り付けていくのだ。

作業も終盤。2本の竹の飾りを取り付ける

組み立てた船に飾りを取り付ける。折り紙や旗がついた竹の飾りを2本、最後にオレンジ色の吹き流しを船に刺し、最後に「精来丸」と書かれた帆を掲げると、いよいよ準備万端。朝から作業が始まり、時刻はすでに16時を過ぎていた。あとは出航を待つのみだ。

それぞれの思いを船に載せて

さまざまな思いを胸に、お供え物を結びつけていく

お供え物は瓜・茄子・餅・団子・生前好んだ菓子・果物など

「念仏講」を唱えるため岸には20名ほどの女性がスタンバイ

日が傾き始め、先ほどまで男衆だけだった浜には子どもや女性など地区の住民たちが集まってきた。紙に包んだお供え物を持って来て、船に結びつけていく。

18時。いよいよ精霊船を送り出す時間となった。精霊船は男達に押されながら海に出て、2艘の曳き船によって沖合まで曳かれていく。曳き船には「ウリオイ」と呼ばれる初盆を迎えた人々が乗り込み、精霊船を見送るのだ。

チリンチリンと一糸乱れぬ鈴の音とともに念仏を唱える女性たち

船は入江を時計回りに3周した後、沖に出る

多くの人たちに見守られながら、ゆっくりゆっくりと海を進む精霊船。浜念仏を唱える女性たちの声とやさしい鈴の音が海に響き渡る。

黄金色に輝く夕日とともに進む精霊船の姿はなんとも幻想的だ。浜で見守る人たちもそれぞれに祈りと供養の気持ちを込めているのだろうか。ただ静かに船を見つめている姿が印象的だった。

船は入江を大きく3周したあと、外洋へ。夕日が水平線に沈むとともに、半島の先のほうでその姿は見えなくなっていった。

地域の人々が総出で協力しあい、完成する伝統行事が今日まで継続していることは、菅浜の人々の誇りになっている。先祖を供養する思いはこうして次の世代に受け継がれていく。

Other Story

一覧に戻る

エリア
マップ

日向湖
エリア

久々子湖
エリア

早瀬
エリア

敦賀半島
エリア

佐柿国吉
エリア

新庄
エリア

東美浜
エリア