早瀬エリア

北前船の歴史が残る、
漁師と商人が共存した集落

HAYASE
area

久々子湖畔にある早瀬は、
漁村と町家の面影が残る集落です。

北前船の寄港地・船主集落として栄え、
江戸時代後期には脱穀用農具である
「千歯扱き(せんばこき)」の
生産地としても発展。
早瀬の千歯扱きは「若州早瀬せんば」と
呼ばれ、
全国に販路を拡大しました。

子供歌舞伎や水無月祭など
華やかな芸能や神事も多く、
信仰心のあつい土地柄を感じさせます。

Story

Story 01.

早瀬エリア2024.04.26

早瀬の気質と
自然が醸す酒

300年以上、
漁師が飲む酒を造り続ける

人口約350人の「早瀬」は、小さな漁村でありながらかつては1,200人の方が暮らし、料亭や旅館が立ち並ぶなどさまざまな商いが行われた集落だ。北前船の寄港地・船主集落だったことから早瀬を起点に、北へ南へ行商するものも多かったという。集落を歩くと財力の象徴であった「なまこ壁」の土蔵や平入りの町家建築が見られるなど、当時の風格を感じさせる街並みが残る。

そんな早瀬の集落で、全国の日本酒ファンが熱い視線を送る酒蔵がある。それが「三宅彦右衛門酒造」だ。早瀬では、豊漁と航海の安全を祈るために古くからさまざまな神事が行われてきた。三宅彦右衛門酒造は神事に用いる神酒をつくる小さな蔵として、1718年に創業。以来、300年以上にわたり酒造りを続けている。

早瀬でかつてよく見られたなまこ壁。裕福な家にだけ見られる意匠だった

奇跡の地形から湧き出す水

「地元の漁師がたくさん飲めて、しかも次の日に残らない。そんな漁村ならではの酒を造ってきました」というのは三宅彦右衛門酒造12代目の三宅範彦さん。

主力銘柄の「早瀬浦」は繊細さのある味わいで、まさに漁師が魚を肴に飲む、辛口の男酒だ。

酒の味を左右するのが、水。三宅彦右衛門酒造では建物に入ってすぐに小さな井戸があり、創業以来この水を使い続けている。大学の研究によると酒蔵のそばにはジュラ紀の地層が隆起しているのだとか。太古から幾度となく繰り返されてきた地殻変動によって生まれた特異な地形。その影響を受けた井戸水は福井県では珍しい中硬水で、ミネラル豊富な発酵力の強い水が湧き出ている。

三宅彦右衛門酒造12代目の三宅範彦さん

「早瀬浦」の命とも言える水はこの井戸から汲み上げられている

「私が子どもの頃は能登や新潟から杜氏や職人が来て、冬場酒蔵に泊まり込みで酒造りをしていました。能登の杜氏は自分の奥さんが病気になったり入院しても、家に帰らずに酒造りをするほど。今はそんなことはまずありませんが、私はそんな職人魂を目の当たりにした最後の世代だったのかなと思います」と三宅さん。

近年は住み込みでの働き方が難しくなり、遠方の杜氏を季節雇用する流れから地元に住む職人を通年雇用するようになった。現在、三宅彦右衛門酒造では美浜町内に住む職人たちを中心に酒造りを行い、真夏を除いた8月末から6月いっぱいまで酒の仕込みを行っている。

昔ながらの方法を守りながら丁寧に造る酒。年間500石と量は決して多くないが、仕込みの期間が長くなった分、季節にあった酒を提供できるようになった。夏の搾りたてやひやおろしなど、季節ごとに登場する限定酒は多くの早瀬浦ファンをとりこにしている。

早瀬浦は口コミだけで話題となり全国各地にファンが多い

酒は全量槽搾り。圧力をかけすぎず、一滴また一滴とじっくり酒を絞る

酒の成分がしっかり残る酒粕は主に京都の奈良漬に使われる

この場所で酒造りをする覚悟

早瀬という土地は、三宅さんにとって酒造りをする上で心の支えとなっている。

「早瀬には実は田んぼが1枚もなく、広い平野もありません。山と湖、日本海に囲まれた狭い陸地では資源が乏しく、この場所で生き残っていくために昔の人は知恵を絞ってきました。漁業だけでなく商業も発展し、北前船でほかの地域に活路を見出す船頭も多かったんです。今の条件をいかにプラスに転じていくか。物事の見方や考え方を研ぎ澄ますのは、早瀬ならではの気質だと感じています」

早瀬の船頭には、ほかの地域の船乗りより優れているところが3つあったそうだ。

「一つは才能。男ばかりの船乗りの世界で、いかに人の心をつかむか。数字に強いなど商売の部分だけではなく、三味線などの芸事をたしなむ魅力的な人が多かったと聞きます。二つ目は技術。海の世界で勝ち残るために、船の操縦だけでなく空や海の様子で天気を予報する能力にも長けていること。そして一番大切なのが正直さ。まさに人への信用です。この三つは私が早瀬で酒蔵を続けていく上でも大事に守っていきたいと思っています」

約300年もの間、地元の人に飲まれ続け、育て鍛えられてきた三宅彦右衛門酒造。早瀬に足を運び、この場所で早瀬浦を堪能してほしいと三宅さんはいう。

「早瀬は集落の高台に行くと海や山、湖の景色も楽しめます。気持ちが穏やかな時は水面の静かな三方五湖。仕事で切羽詰まっている時は逆に荒れた日本海を眺めるのもいいんです。穏やかさと厳しさ、両方の良さを感じられるのが早瀬の魅力。この場所で飲むからこそ感じられる味わいがあると思いますし、飲んだときに早瀬の景色が思い浮かぶような酒をこれからも造り続けていきたい」

ひと口飲めば、脈々と息づいてきた歴史や土地の独特な息遣いが感じられる早瀬浦は、まさにこの場所でしか造ることのできない唯一無二の酒なのだ。

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