漁村のまち並みを
色濃く残す日向湖

冬の朝6時、澄んだ冷たい空気が寝起きの目を覚ます。夜明けまでまだ少し時間があるが、日向湖の周辺を歩いてみた。湖をぐるっと囲むように広がった集落はところどころに細長い路地がのび、タコつぼや漁で使う網、板壁に覆われた伝統的な家屋、稀に土蔵も見られるなど、漁村の雰囲気が漂う。湖には小型漁船が停泊。波はほとんどなく、まるで時間が止まったかのようだ。

三方五湖の一つ、日向湖はほぼ海水であることから、昔から天然の良港として栄えてきた。水深は五湖のなかでは最も深い38.5m。湖ではハマチやタイの畜養が行われ、釣客相手の遊船や民宿も多い。

日向湖と若狭湾をつなぐ運河には太鼓橋が架かり、湖に係留している漁船は、この橋をくぐり海と行き来している。その昔、この場所で災害の土砂を取り除く際に大蛇が現れ作業を妨げようとしたのを、長い綱を張って防いだ言い伝えがあるそうだ。そこから360年以上にわたり、毎年1月には地元の青年たちが川の中に飛び込み、東西に分かれて綱が切れるまで競い合う伝統行事「水中綱引き」が行われている。

湖で海釣りを楽しむ

太鼓橋から東に車を走らせ、湖の外周をほぼ半分くらい進むと桟橋が見えてきた。何やら人でにぎわっている。ここは「フィッシングランド日向」。桟橋型の海上釣り堀で、マダイやブリ、ヒラマサ、オリーブハマチ、シマアジ、イサキ、イシダイなどが放流されている。エサの販売や竿やタモなど道具の貸し出しも行っているため、初心者でも気軽に海釣りが楽しめると人気の場所だ。

釣り客は朝6時半までに集合し、クジを引いて場所を選ぶ順番を決める。朝7時に釣り場に入場し、そこから10時までの3時間一本勝負。魚がヒットするたび竿が大きくしなる。訪れていた人に声をかけてみたところ、ほとんどが岐阜や滋賀など県外からのお客さん。毎週末通っている人も多く、最高齢でなんと99歳の方も元気に釣りを楽しんでいるそうだ。

釣り堀は通常、釣果を買い取るシステムが多いが、フィッシングランド日向は入園料を払えば釣り放題。この日も3時間近くで15匹ものタイを釣っていた人がいた。釣った魚はその場で締めてくれるので、新鮮なまま持ち帰れるのも嬉しい。湖でありながら、釣って楽しい、食べて美味しい海上釣り堀は、日向湖ならではの楽しみ方だろう。

新鮮な海の幸を味わえる
民宿ごはん

日向湖の楽しみ方といえば「民宿」もはずせない。美浜町内には30以上の民宿があるが、地元漁師が経営しているところも多く、それぞれの宿が料理にこだわりを持っている。

夏は三方五湖産の天然ウナギや旬の魚、美浜町でつくられるへしこ、冬は若狭湾で育った良質で身が引き締まったフグやブリ、日本海の冬の味覚の王様、越前がになどなど…。刺身はもちろんのこと、季節ごとの新鮮な魚介を焼き、煮、揚げなどさまざまな調理方法でいただく料理の数々は、まさに贅沢の極み。おなかいっぱい食べても不思議と翌朝にはお腹が空き、美味しく朝食が食べられるから不思議だ。

ボリューム満点の料理に舌鼓を打ちながら、湖畔の夜は更けていく。